2013年 06月 30日 ( 1 )

エッセイ2

それから10数年。私は結婚をした。
付き合ってすぐに子供ができ、相手の性格も趣味もよく分からずに一緒になった。

そんな相手は大の競馬好きだった。

大きなお腹を抱えた私は、ひとりで新居を探して歩いた。
やっとのことで見つけた部屋は、西国分寺駅から徒歩20分のところにあるマンション。

引越を済ませ、2人で近所を散策していて気が付いた。
そこは東京競馬場の近くだった。

そうと分かった旦那は、日曜日になると自転車にまたがり、競馬場へ通った。
旦那のその習慣は、息子が生まれても変わることはなかった。

ダービーの日のこと。

私は40度の熱に冒された。
今日だけは子供を見て欲しい。私は懇願した。
旦那は困り果てた。眉間にシワを寄せ、布団に横たわる母子を見つめた。

「……分かった。今日は早く帰ってくる。飲みに行かない。17時には帰ってくる」

競馬場へ行くのかよ…。

「……仕方がないんだよ。席を取っちゃったんだからさ」旦那は口をとがらせた。

結局、息子は府中駅近くの託児所に預けられた。

上階での競馬観戦のため、スーツ姿で託児所に向かった旦那。
「お父さん、日曜日なのにお仕事大変ですね」と、保母さんに厚情の言葉を掛けられた。
「いやぁ……」と苦笑いをする旦那の姿は、保母さんの目に謙虚なお父さんと映ったことだろう。
by inaw | 2013-06-30 17:41